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第17話 婚姻届の名は朝霧栞①

Penulis: 花柳響
last update Tanggal publikasi: 2026-06-20 06:00:23
 病院へ向かう車の中で、律はほとんど話さなかった。

 それが気まずくないと言えば嘘になる。けれど、何かを説明され続けるよりはよかった。

 膝の上には、昨夜から持ち歩いているファイルがある。契約書の草案。古い名刺。支援窓口のカード。どれも薄い紙なのに、重さだけは別々だった。

 窓の外を流れる朝の街は、いつも通りだった。通勤の人が信号を待ち、コンビニの配送車が路肩に停まっている。

 私だけが、昨日と違う名前の場所へ来てしまったようだった。

 病院の廊下は、朝なのに夜の底みたいに静かだった。

 白い床に、蛍光灯の光が薄く伸びている。看護師の靴音が遠くで止まり、また離れていった。消毒液の匂いは昨日と同じで、胃のあたりをわずかに冷たくした。

 ナースステーションで面会の確認をした時、受付の職員は少し迷った。

 如月家からの申請書には、まだ私の名前が如月栞と残っている。榊側から追加で入った連絡票には、朝霧栞とある。

 その二つを見比べる数秒が、思ったより長かった。

「ご本人確認のため、お名前をお願いします」

「朝霧栞です」

 口にしたあと、舌の上にその名前の重さが残った。

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